「同一労働・同一賃金」は働き方改革関連法の中の「パートタイム・有期雇用労働法」の改正に伴い、大企業では2020.4.1施行、中小企業(常時使用労働者数100人以下)では2021.4.1施行となる新たな制度です。
この制度により、同一の事業主に雇用される正規職員と非正規職員との間の不合理な待遇差(賃金、福利厚生等)が禁止されます。
「同一労働・同一賃金」という呼称はすでにご存じの方は多いと思います。H28年に政府が掲げた一億総活躍社会の実現として「働き方改革」関連法案が決定され、以来、この「働き方改革」というネーミングは社会に広く浸透したようです。
安倍政権の掲げたアベノミクス、一億総活躍社会の理念の一つとして、「同一労働・同一賃金」は”ワークライフバランス”の改善や”正規・非正規による格差の解消”につなげることが目的でした。
しかし、今現在、果たして格差は是正された、是正されつつある、のでしょうか?
今年(2020年)1月末から現在に至るまで新型コロナウィルスの影響により、経済の縮小、雇用の悪化という非常時に直面しています。コロナ発生前からの非正規割合の高さを是正する間もなく雇用そのものが危機にさらされてしまいました。正規・非正規の格差以前の富裕層と非富裕層の格差が圧倒的に拡大しているような感覚に陥ります。
そんな中で、この「同一労働・同一賃金」は今年4.1に大企業が先行し、中小企業は来年4.1の施行の準備に入りました。
前置きが長くなりました。「同一労働・同一賃金」の具体的内容に入ります。
正規・非正規の間の不合理な待遇差の禁止と前段で触れましたが、ここで言う正規とは”無期雇用フルタイム労働者”であり、非正規とは”有期雇用労働者やパートタイム労働者”のことを指します。
各会社にはそれぞれの呼び名があるようですが、中には”フルタイムパート”などという訳が判らない呼び名も聞いたことがあります。確かこの会社での定義はフルタイムの時給者のことをそう呼んでいるということでした。月給、時給は賃金の形態であり、これだとフルタイムのパートタイム労働者となり定義そのものが矛盾してしまいますね。ですので、この制度でのパートタイム労働者とは短時間労働者です。そして、有期雇用労働者とは有期契約の臨時職員などと理解してください。
検討のベースとなる考え方として、2つのKey Wordがあります。
「均等待遇」と「均衡待遇」です。
「均等待遇」とは、①職務の内容(業務の内容及び責任の程度)②職務内容・配置の変更の範囲(転居を伴う転勤の有無等)の2点が同じ場合、差別的な取り扱いを禁止するものです。すなわちイコールの待遇ということです。
「均衡待遇」とは、①職務内容②職務内容・配置の変更の範囲③その他の事情の3点の違いを考慮した上で不合理な待遇差を禁止するものです。つまり、合理的な理由があれば違いはOKということです。
「均等待遇」の方が判りやすいですね。
判断が難しいのは「均衡待遇」の合理・不合理な理由は何か、ということです。
まず、短時間だからとか臨時だからだけの理由での待遇差があってはならないのは当然とし、更に、たとえば”将来の役割期待が異なるため”とか”賃金の決定基準・ルールが異なるため”とかの主観的・抽象的説明もNGとなります。
賃金の決定基準・ルールの相違は、①職務内容②職務内容・配置の変更範囲③その他の事情の客観的・具体的な実態に照らして不合理なものであってはならないのです。
これらの詳細(ガイドライン)や判例(裁判例)は、厚生労働省HPにUPされていますが、判例はまだまだ少ないようです。こうしたことから「同一労働・同一賃金」を実行するには相当の労力が必要と思われます。
この制度に罰則はありませんが、労働者からの訴えによる行政ADR(裁判外紛争手続き)や損害賠償請求等の訴訟、労働基準監督署の是正勧告に係る公表等はあり得ます。ですので、そのような事態に陥らないために検討し、必要であれば就業規則等を改定し、労働者から説明を求められた場合クリアな説明ができる体制を整える義務が事業主に課せられたのです。
”ダイバーシティ”という言葉を最近よく聞きますが、多様性という意味で、働き方も多様な社会になりました。人口減少社会での労働力を確保するにはこれまで以上に女性も高齢者も働ける社会を目指し、その意味でも均等・均衡待遇は不可欠でしょう。
中小企業では、賃金など”社長の胸先三寸”で決められなくなるのでしょうか?
しかし、冒頭に書きましたが、コロナ禍の現在、中小企業の存続そのものが危機にさらされ「同一労働・同一賃金」などとは言っていられないのも現実です。雇用そのものが失われてしまっては元も子もありません。
果たして・・・「同一労働・同一賃金」「働き方改革」は今後どのような途をたどるのか・・・まったくもって見えないのが今の私の実感です。